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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(オ)1003号 判決

東京都港区新橋四丁目二一番六号

上告人

三京化成株式会社

右代表者代表取締役

佐藤幸吉

右訴訟代理人弁護士

岡部勇二

被上告人

右代表者法務大臣

稲葉修

右指定代理人

高橋健吉

右当事者間の東京高等裁判所昭和四六年(ネ)第五六三号不当利得返還請求事件について、同裁判所が昭和四八年六月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡部勇二の上告理由について

原判決は、その挙示の証拠関係及び説示に基づき、所論佐藤幸吉及び竹原和雄の各代表取締役はいずれも使用人としての職務を有する役員から除外されており、近藤庫太郎、朝倉襄治及び林喜孝の各取締役が所論のように役員兼務使用人と認めることができず、また、佐藤忠雄は監査役として使用人の職務を兼務し得ないとしたうえ、本件金員支給の趣旨が役員報酬とは認められないと認定判断しているのであつて、以上の認定判断は、これを是認することができる。そして、上告人に対する法人税の課税と所論賞与の支払を受ける各役員個人に対する所得税の課税とは、二重の課税にあたらないのはもちろん、上告人が課税済みの利益のうちから右各役員に支給した賞与について、当該役員個人の所得として再び課税されたからといつて、税法における公平負担の原則に反するものではない旨の原審の判断も正当として是認することができる。したがつて、本件更正処分、ひいては過少申告加算税賦課決定処分に明白かつ重大な瑕疵があるとは認められず、右処分に基づき納付した金員につき不当利得返還請求権の発生する余地がないとして上告人の本訴請求を排斥した原判決の判断は、正当であり、右認定判断の過程に所論の違法は認められない。また、原判決の判断に違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨は、ひつきよう、原審の右認定と相容れない事を主張し、あるいは、独自の見解を主張するにすぎず、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川信雄 裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊)

(昭和四八年(オ)第一〇〇三号 上告人 三京化成株式会社)

上告代理人岡部勇二の上告理由

原審は、事実を誤認し、法令の解釈適用を誤ると共に憲法の解釈を誤り、もつて、上告人が本件役員六名(以下本件役員らという。)に支給した賃金賞与一〇一万円に対し、芝税務署長がこれが損金算入を否認して法人税合計三八八、九〇〇円を賦課した本件更正処分が税法における二重課税排除の原則および公平負担の原則に違反して無効であるのに、これを適法であるとして、旧法人税法施行規則一〇条の四、同一〇条の三第五項および第六項の規定(以下本件旧規則二条項という。)が、憲法一四条第一項、二七条第一項、三〇条の各規定に違反しないものとしたが、右は明白かつ重大なかしある違法なものであつて、明白に憲法に違反するものであるから、原判決は破棄されなければならない。

一、原判決は、被上告人の主張、立証を認めて、本件更正処分を適法と断定したが、本件更正処分は委任契約の解釈適用を誤つた点において明白かつ重大なかしある違法な行政処分であるから無効である。

二、そもそも、原審が上告人の主張、立証を認めなかつたのは、法律的、社会的および経済的知識の無理解のために、事実を誤認し、法令の解釈適用を誤つたものであると推測する。

被告人および原審は、株式会社を主とする企業における「企業の所有と経営の分離」をよく理解していないために、株式会社の実質的所有者である株主が企業の経営を第三者である役員(取締役および監査役)に委任して、自らは単に企業より生ずる利益の配当を受けている者であるという法律的、経済的および社会的実態を適法かつ正当に認識しなかつた結果、会社と役員個人との関係が委任契約であることを認識しながらも、右会社が委任契約に基づいて右役員に支払う報酬(給料および賃金賞与)が会社の必要経費に該当しないものであるとして、これに法人税を課税しているが、右は委任契約を全く誤解したものであつて、明白かつ重大なかしある違法である。

三、そこで、上告人は重ねて、事実を摘示する。

上告人が本件係争期間の一年間に本件役員らに支払つた報酬は次のとおりである。

役員の氏名 役職名 給料千円 賃金賞与千円 報酬合計千円

佐藤幸吉 代表取締役 九二〇 三六〇千円 一、二八〇

近藤庫太郎 取締役 一〇五 五 一一〇

朝倉襄治 取締役 七八〇 二〇五 九八五

林喜孝 取締役 四六〇 一三五 五九五

竹原和雄 代表取締役 五一〇 一三五 六四五

役員の氏名 役職名 給料千円 賃金賞与千円 報酬合計千円

佐藤忠雄 監査役 六三〇 一七〇 八〇〇

計 三、四〇五 一、〇一〇 四、四一〇

右賞与は、いずれも利益賞与ではなく、賃金賞与である。

従つて、その支給は株主総会の決議又は定款の定めによることなく、上告人と本件役員らとの委任契約に基づく債務の履行として支払われるものである。

しかして、上告人は、本件係争事業年度においては、その前半期において、収入がなかつたために、その支給の時期がずれたが、臨時に支給したものではない(乙第一および第二号証)。

上告人は、右賃金賞与を昭和三八年八月、同年一二月および昭和三九年二月の三回に分けて給与簿に記載のうえ支給したのである(甲第一七号および第一八号証)。

四、そこで、上告人は、原審における主張をここに要約する。

(一) 会社は、資金(株主が出資した資本金および他人からの借入金)と社長以下の従業員の勤労によつて経営される企業体である。

(二) 被上告人は会社の勤労者を役員と使用人に区別して、役員の勤労の対価につき二重に税金を取ろうとしているが、右は明白な違法である。

(三) 会社が支払う利子および勤労に対する対価即ち賃金は、いずれも契約に基づく会社の債務であつて、法人擬制説をとるわが税法においては、いずれも必要経費である。

(四) 株主は、その利益の一部を役員に対し賞与として分配することができる。これは会社が役員に支払う利益賞与である。

(五) 従つて、役員賞与の中には賃金賞与と利益賞与の二種類がある。

しかして、本件役員賞与は賃金賞与である。

(六) 民法上の雇用、委任及び請負契約は、いずれも労務提供の典型的契約であつて、個人が契約に基づいて働いて収入を得る点において同一である。

従つて、役員は使用人と同等の賃金賞与を受ける権利を有するものである。

換言すれば、すべての役員は、会社に利益がなくても、使用人と同様に賃金の後払いである賃金賞与の支給を受ける権利を有するものである。

(七) 被上告人は、役員の勤労は委任契約によるものであるから「役員報酬の中には賞与が含まれない。」と断定しているが、右は被上告人が税法において勝手に作り上げた解釈であつて明白かつ重大なかしある違法である。

(八) 賃金賞与は給料の後払いであつて、その支給の時期は会社の自由である。

(九) 被上告人は会社と社長および会社の社長個人との法律関係の区別が理解できないために、社長が賃金賞与をもらうのは違法であるとしているが、右のような法解釈では事業主報酬制度は全く理解できない筈である。

右事業主報酬は、勤労所得に対する平等課税の原則の顕現である。

(十) 上告人は本件役員賞与一〇一万円に対し、本件役員らの源泉所得税金一〇六、一〇〇円を徴収して、納付したのに、芝署長は右一〇一万円の損金算入を否認して、これに法人税三三三、三〇〇円賦課したことは、二重課税排除の原則および公平負担の原則違反の違法である(甲第一八号証)。

五、原判決は、「会社役員は委任契約に従つて、会社のため忠実にその職務を遂行する義務を負い」と適法かつ正当に判示しながら、「会社の役員に一般の使用人とは異なる地位にあるものといわなければならない。」とのおかしな理由を構えて、役員に対する賃金賞与の支給を違法であるとしているが、右は誠に理由そごの違法である。

役員が忠実にその職務を遂行する義務があると同時に、会社は右役員の勤労の対価として給料および賃金賞与を当然に支払う義務が発生するのである。

役員とその他の使用人とは、その仕事の内容は異なるが、いずれも会社と個人との労務提供契約によつて働いているものであつて同等の勤労者である。

被上告人および原審は「使用人が出世すると役員になる。」という社会的事実を全く認識していないものと認める。

従つて、原判決は、上告人が本件役員らに対して賃金賞与を支払つたことは違法であると断定したが、右は誤りであり、明白な違法である。

六、原判決は「役員に支払われる報酬は定款にその定めがないときには株主総会の決議をもつて定めることになつている。」と断定して、本件賞与が前回の株主総会の決議による役員報酬の限度額の年間三八〇万円を超過しているから違法であるとしているが、右は誤りである。

被上告人は、契約自由の原則を無視して「過大報酬」という訳のわからない基準によつて定款の定めおよび株主総会の決議による報酬額を否定しているのだから、右のような断定は誤りである。

株主総会の決議がなかつたとの理由で賃金賞与に法人税を課税するのは違法である。

上告人が本件役員に支給した報酬(給料および賃金賞与)は、世間一般より明白に低額であるから、この点においても本件報酬は適法かつ正当である。

七、原判決は「会社が役員に対して臨時的な給与として支払う賞与は、役員がその業務に対する報酬として、一定の支給基準に基づき、会社から定期的に継続して支払われる給与とは異なり、会社の利益処分としての性質を有するものというべきである。」と断定しているが、右断定は違法であつて誤りである。

臨時的な賃金賞与が、当然に利益処分となつて課税されるという合理的かつ法的根拠は何もない。

被上告人は、へ理屈をつけて税金をとろうとしているが右は誠に違法である。

会社は資金繰りの都合で定期的に賃金賞与を支払うことができないために、その支給の時期がずれることはしばしばあるものである。

仮に賞与の額を問題とするものであるとしても、右は一年間に支払われた金額を問題とするべきであつて、「臨時的」という支払期によつて法人税が課税されることになるものではない。

八、原判決は「株主は会社と同一体であるから、二重課税排除のために配当控除が認められる。」が「会社と役員との間には同一性はなく、法律上も委任関係に止まるものであるから、会社が課税済の利益のうちから役員に支給する賞与については役員個人の所得として再び課税されたからといつて二重課税にはならない。」と断定しているが、右は誠に委任契約の意味、内容を誤解したもので、誠に違法である。

会社が「委任契約に基づいて支払う賃金賞与」は、当然に必要経費になるものであつて、被上告人の無知な法解釈によつて必要経費に算入されないことになるものではない。

九、要するに、原審は、被上告人と同様に、「会社の代表取締役は会社と同一体であるが、右代表取締役がその勤労の対価として受ける賃金賞与は会社対個人の委任契約に基づく関係であること」を認識できないために、「社長等に対する賃金賞与はあり得ない。」との結論を出して、「役員賞与の損金不算入」という本件旧規則二条項が憲法違反でないという違法な断定をしたが、右は明白かつ重大なかしある違法である。

換言すれば、本件旧規則二条項は「会社と役員との関係は委任契約であるから、右契約に基づく支払は、会社の義務に基づく支払いであるから当然に必要経費になる。」という法理を無視して違法に課税するところに、明白かつ重大な誤りがあるのである。

一〇、次に役員に対する利益賞与は、実質的委任者である株主と受任者である経営者即ち役員との利益の分配関係であるから、(原審および被上告人はこの法律関係を適法かつ正当に理解していない。)右利益賞与は課税済の利益から支払われるのは、これまた当然の事理である。

従つて、役員の利益賞与は、すでに課税済みであるから、株主に対する配当控除と同様の二重課税排除の原則に従つて、右役員の所得税において、その納税済みの税金の全額につき税額控除をしなければならないものである。

しかるに被上告人は不当かつ違法な理屈を構えて、右税額控除を法定していないのである。

しかして、右と同種の法理は法人の受取配当の益金不算入の原則においては明白に法定されているのであるから に不公平である。

ともかくも、わが国の税法は、国家公務員全体およびその他の国民全体の学問の無理解のために、本件更正処分のような違法な税務行政処分が、いつまでも行われているのである。

一一、(憲法一四条一項違反)

芝署長の本件更正処分は、上告人に対し、すでに支払済みの本件役員賞与一〇一万円につきその損金算入を否認して、法人税三八八、九〇〇円を二重に課税した点において、税法における平等負担の原則に違反したものであつて、憲法一四条一項の平等の原則違反の違法である。

一二、(憲法第二七条一項および第三〇条違反)

上告人は、その職員である本件役員らと委任契約を締結して、本件役員らが会社の事務を処理することに対する対価即ち勤労の対価として本件賃金賞与一〇一万円を支払い、これを当然の必要経費としたのに対し、芝署長は本件旧規則二条項によつて、右賃金賞与の損金算入を否認して、右賞与に対し、法人税三八八、九〇〇円を賦課したことは、二重課税排除の原則に違反する違法課税であつて、上告人の職員の勤労権を違法に侵害したものである。

上告人は、委任契約に基づき本件役員らの勤労に対し、一方では世間並みに賃金賞与を支給する義務を有し、他方では本件役員らに対し忠実にその職務を遂行することを請求する権利を有するものである。

ところが、本件更正処分は、法人税三八八、九〇〇円の違法課税によつて、上告人の右賃金賞与の支払による本件役員らに対する忠実な職務遂行請求権を違法に侵害すると共に、上告人の職員である本件役員らの勤労権を侵害したもので、憲法第二七条一項の定める勤労権を明白に侵害した憲法違反の違法である。

また、本件更正処分は、上告人が委任契約に基づき本件役員らに支払つた報酬(賃金賞与)に対し、その損金算入を否認して、上告人に対し納税する義務のない法人税三八八、九〇〇円を違法に賦課した点において、憲法三〇条違反の違法なものである。

一三、なお、上告人は、本件憲法違反の主張を明らかにするため、原審における準備書面の第三ないし第五を左記に引用する。

第三、憲法違反の主張

控訴人は、原判決の原告の主張の四の(三)において主張したとおり、本件更正処分の根拠となつた旧法人税法施行規則(以下旧規則という。)第一〇条の三第六項、第一〇の四(以下この二条項を本件旧規則二条項という。)は法人の支給する役員賞与について二重課税を規定したもので、税法における二重課税排除の原則および公平負担の原則に反し、右(三)において主張したとおり、憲法一四条一項(平等の原則)、同法二七条一項(勤労の権利)、同法三〇条(納税の義務)の各規定に違反するから、法令としての効力を有するものではなく、従つて、右規定に基づいてなされた本件更正処分は、当然に違法であり、その瑕疵は重大かつ明白である。

一、役員賞与の損金否認については、現行法人税法(以下単に新法という。)は、これをその三五条に規定し、その細則は同法施行令(以下単に令という。)七〇条および七一条に規定している。

二、しかして、新法の規定によると取締役近藤庫太郎(五、〇〇〇円)、同朝倉襄治(二〇五、〇〇〇円)および同林喜孝(一三五、〇〇〇円)は常時使用人としての職務に従事していたものであるから、右三名に支給した役員賞与合計三四五、〇〇〇円の賞与は、使用人兼役員賞与として適法である。

従つて、旧法人税法(以下単に旧法という。)に規定されてないのに、単に本件旧規則二条項によつてなした本件更正処分は明白に違法であつて、無効である。

三、してみると、本件更正処分につき、控訴人が引続き違法を主張、立証するものは、代表取締役佐藤幸吉(三六〇、〇〇〇円)、同竹原和雄(一三五、〇〇〇円)および監査役佐藤忠雄(一七〇、〇〇〇円)に支給した役員賞与合計六六五、〇〇〇円についてであると認める。

四、よつて、本審においては前項の三名の役員賞与(以下この三名の賞与を「代表取締役らの賞与」という。)につき論ずる。

しかして、右第二項で主張した近藤ら三名の平取締役の賞与(以下この三名の賞与を平取締役ら賞与という。)について、仮りに、被控訴人が本件更正処分が適法かつ有効であると主張するのであるならば、右代表取締役らの賞与についての主張、立証は、右平取締役らの賞与についても、当然に当はまるものである。

五、控訴会社の株主は甲第一六号証の株主名簿記載のとおりであるから、控訴会社は普通の株式会社であつて、同族会社ではない。

従つて、同族会社の使用人兼務役員賞与についての規定は控訴人には適用されないものである。

六、同族会社の使用人兼務役員賞与を否認した本件控訴代理人が取扱つた小石川税務署事件については、本件控訴代理人がその更正処分が憲法違反の違法であることを主張して、国会および内閣を動かして、終に昭和四五年に法人税法二条一〇号を改正せしめたことは、原審で主張、立証したとおりである。

控訴代理人が右小石事件において主張したことは原審においてすでに主張、立証したところである。

第四、本件更正処分による課税は本件役員六名(以下本件役員らという。)に対する所得税の二重課税であつて違法であることについて

一、株式会社(以下単に会社という。)の株式配当が、会社の益金から支払われるものであることは当然である。

しかして、被控訴人国(以下単に国という。)は、本件役員賞与は必要経費ではなく、本件旧規則二条項に従つて、控訴会社の益金から支払われるものであると主張し、芝税務署長(以下単に芝署長という。)は、右主張のとおり本件更正処分をなしたのである。

二、しかして、控訴人は、本件役員らに対し本件役員賞与金一、〇一〇、〇〇〇円(以下これを本件賞与一〇一万円という。)支給したところ、国は右一〇一万円に対し三三%(控訴人の益金が三〇〇万円以下であるため)の三三三、三〇〇円の法人税を本件更正処分によつて賦課したのである。

三、ところで、本件賞与一〇一万円を支給するための原資となる税引前の益金は約一五一万円である。

1,010,000円÷67≒151万円

しかして、右約一五一万円に対する三三%の税金は四九八、〇〇〇円である。

従つて、控訴人は、本件賞与一〇一万円を支給するために一五一万円の原資即ち益金(以下これを本件原資一五一万円という。)を必要とし、これに対し法人税四九八、〇〇〇円を本件係争事業年度に先づ納付しなければならないのである(実際には昭和四一年一二月二八日までに納付した。)

しかして、控訴人は、実際には、本件原資一五一万円のほかに、更に地方税として二〇六、八〇〇円(均等割三、〇〇〇円所得割税率一三・五%)を附加した原資が必要なのである。

四、一方、控訴人は、本件役員らのために、その支給した賞与合計一〇一万円に対し、甲第一八号証の源泉徴収所得税一覧表のとおり、昭和三八年に七四、〇〇〇円、昭和三九年に三二、一〇〇円の合計一〇六、一〇〇円の所得税を源泉徴収して納付したのである。

五、ところで、わが国の税法は、法人擬制説を採用しているから、控訴人が本件役員賞与原資約一五一万円につき納付する法人税四九八、〇〇〇円は、本件役員らに対する所得税の前取りないし源泉課税的所得税となるのである。

六、その上、控訴人は、本件役員らにつき前述のとおり、源泉所得税一〇六、一〇〇円を源泉で徴収したのである。

七、してみると、控訴人は、本件役員らのために、その所得合計一五一万円(一応本件原資一五一万円と同額と仮定する。)につき、法人税名目で四九八、〇〇〇円を、本件賞与一〇一万円につき所得税で一〇六、一〇〇円を納付したので、合計六〇四、一〇〇円の広義の所得税を納付したことになるのである。

八、しかしながら、本件役員らが、その所得合計一五一万円につき、本来、納付すべき所得税の合計は概算約二〇万円である。

九、従つて、本件役員らは、約四〇四、一〇〇円の広義の所得税の納め過ぎとなつたのであるから、昭和三八年分および三九年分の確定申告において、右四〇四、一〇〇円の還付受けることができた筈のものである(実際には昭和四一年分の確定申告において還付受けることができた筈のものであつた。)。

一〇、ところが、無理解な税務職員は、本件旧規則二法条を誤解して右約四〇四、一〇〇円の過誤納金を還付しないで、国に不当利得させたのである。

一一、要するに、国は、本件役員賞与原資一五一万円につき、法人税法における法人擬制説に基づく税法の根本理念に反して、役員賞与の損金不算入という違法な税法理論を旧規則一〇条の四に規定して、本件役員賞与原資約一五一万円に対し法人税四九八、〇〇〇円を違法に課税し、本件役員らに対する広義の所得税約四〇四、一〇〇円を違法に徴収したのである。

一二、しかして、税務職員は無理解であるので、芝署長は前記第三項の課税理論を知らないために、本件更正処分によつて、本件賞与一〇一万円に対し、三三%の三三三、三〇〇円の法人税を賦課したのである。

一三、従つて控訴人は、本件役員らのために、その所得合計一〇一万円に対し、法人税名目で三三三、三〇〇円、源泉所得税で一〇六、一〇〇円の合計四三九、四〇〇円の広義の所得税を納付したことになるのである。

一四、法人擬制説を採用しているわが国税法において、法人の役員賞与の損金不算入という理論を規定した旧規則一〇条の四の規定は、誠に、明白かつ重大な瑕疵ある違法な規則であるから、当然無効である。

従つて、芝署長は当然無効な旧規則一〇条の四を適用して本件更正処分をなしたのであるから、右処分は二重課税排除の原則に違反する当然無効な違法な処分である。

一五、よつて、控訴人は本件役員らのために、右三三三、三〇〇円の税金を納め過ぎたのであるから、当然に右三三三、三〇〇円の還付を請求することができる権利を取得したことになるのである。

一六、しかして、控訴人は、本件役員賞与一〇一万円につき、本件更正処分によつて、これが損金算入を否認されて、控訴人の所得一〇一万円として、これに法人税三三三、三〇〇円を違法に賦課徴収されたので、国に対し、不当利得として、右三三三、三〇〇円並びにこれに対する延滞税三八、九五〇円および加少申告加算税一六、六五〇円を加算した合計三八八、九〇〇円の返還請求をするものである。

第五、実質課税の原則および二重課税排除の原則違反について

一、控訴人は、第一準備書面の第二において、「本件更正処分は、明白に実質課税の原則に違反しているから当然無効である。」と主張した。

そして、また、第二準備書面の第四において「本件更正処分は、本件役員らに対する所得税の二重課税排除の原則違反であるから無効である。」旨を主張した。

二、右につき、更に説明すると、控訴人が、仮りに、その株主に対し配当を支払つたときには、控訴人は右配当すべき原資に対し三三%の法人税を納付しているため、右株主は、二〇%の税額控除を受けることが法定されているのである。

三、しかして、控訴人は、本件役員らに、一〇一万円の賃金賞与を支払つたところ、芝税務署長は右一〇一万円の原資に対し、三三%の三三三、三〇〇円の法人税を納付すべきであるとして、本件更正処分をなしたのである。

四、仮りに、芝税務署長がなした本件更正処分による前項の法人税の課税が税法原則において適法であるならば、本件役員らは、その所得税の各人の確定申告において、各人がその受取つた役員賞与につき、合計三三三、三〇〇円を役員賞与控除として、税額控除すべきことが、税法原則において当然に認められなければならない筋合のものである。

五、しかるに、所得税法は、配当控除につき法定しているが、「役員賞与控除」については何等の法定もしていないのである。

右のように役員賞与控除につき法定していないことは、所得税法は、法人税法においては「会社役員に対する賃金賞与および利益賞与のいずれについても、これを必要経費として、法人税を課税すべきでない。」との原則に換言すれば、役員賞与は「すべて必要経費である。」との原則に立つているからである。

被控訴人は、国会が定めた所得税法および旧法人税法につき、個人および法人を含めた納税者を一体としてかつ統一的に解釈適用することなく、換言すれば、わが国の税法が法人擬制説に従つて、納税主体および課税物件を規定しているものであることを理解することなくして、税法を誤解して控訴代理人の主張・立証に反論しているのである。

六、被控訴人が主張するとおりであるならば、税法は法人擬制説をとつていないことになるのであるが、それならば、何故に所得税法において「配当控除」という税額控除を規定して、いるのか?

株主が「法人税」として「所得税」を前納していることを認めて右配当控除を法定していることは、会社が株主に対し配当として支払うべき原資につき、法人税名目で株主のために「所得税」を前納しているから、右株主は、その確定申告で右前納した「法人税」につき配当控除をすることができることになるのである。

七、ただ、税法は右配当控除につき、税務政策として、本係争年度については、法人税の税率(三八%または三三%)による税額と同額ではなく「配当所得」の二〇%という低率の額による「配当控除」を法定しているのである。

しかして、右のとおり「法人税額」と「配当控除の税額」が同額でないため、被控訴人および原審は、法人税と所得税の関係を適法かつ正当に認識することができないため、一般国民および被控訴人並びに原審は、控訴代理人が主張している二重課税排除の原則が右「配当控除」において実現されていることを理解することができないのである。

八、しかして、法人税法九条の六の「会社が受取つた利益配当の益金不算入」という制度は、明白に法人税法における二重課税配除の原則の顕現であつて、控訴代理人の主張と同様の趣旨で「利益配当」に二重課税をしていないのである。

税務政策としては「利益配当の益金不算入という経済原則ないし租税原則を認める必要はない。」ということもできるが、現実に、右「益金不算入の原則」は、原則どおり、法定され、そして実在しているのである。

九、よつて、控訴代理人は、わが税法が法人擬制説を採用しているという事実を根拠として、原判決において、本件更正処分が憲法違反であるから、無効であると主張し、立証したのである。

一〇、右控訴人の主張に対し、被控訴人は、その準備書面(一)の二において

「しかし、株主たる地位に基づき出資に対する分配として株主が受ける配当と、法人の役員たる地位に基づいて株主総会の承認を得て役員に支給される役員賞与とは、法人の利益から分配または支給されるのは同一であるが、本質的に異なる性格のものである。前記控訴人の主張は、この相違を全く無視し混同している点に誤りがある。」

と反論している。

一一、そこで控訴代理人は、被控訴人が右の「本質的に異なる性格のものである。」と主張している「原理・原則は何であるか、また、その意味・内容は何であるか。」と釈明を求めているのである。

控訴人は、前記第二および第四で

「被控訴人国は、法人税法において、法人擬制説を採用しているのであるならば、役員報酬および役員賞与に対し、当然に、これを「必要経費として損金算入」を認めるべきである。

そして、仮りに、右損金算入を認めないのであるならば、所得税法において、当然に、右「役員報酬および役員賞与」につき、会社が納めた法人税相当額(本件では金三三三、〇〇〇円)の「税額控除」を認めるべきである。」

と主張・立証して、これに対し、被控訴人の具体的な釈明を求めているのである。

一二、しかるに被控訴人は、右釈明に対し、前記のとおり、単に「本質的に異なる性格のものである。」と答えているが、右は全く答にならないものである。

一三、被控訴人国は、おそらく、昔、信奉されていたことのある資本主義経済原理に従つて、株主=資本家=経営者=取締役=社長(代理取締役)という労働者に対立する一つの集団を考え、そして、これらが全部「資本家」であると認定して「資本家が会社から受取る金銭は、全部会社の利益から受取るべきものである。」と断定して、会社が支払う役員報酬および役員賞与を「必要経費」と認めないで、これに違法な課税をして来たのである。

一四、しかして、国は、新法人税法三五条一項で「役員賞与の損金不算入」という「違法な原則」を法定し、租税法律主義のの憲法上の大原則を盾にとつて、控訴代理人が主張する正当かつ適法な「役員賞与損金算入の原則」を排除しようとしたのである。

そこで控訴代理人は右新法三五条の全部の条項の削除を目論みながら、本件主張をなしてきたのである。

しかして、被控訴人は、現在の税法理論で、控訴代理人の適法かつ正当な右理論に立ち向うことは、困難であると認める。

換言すれば、被控訴人は、いつまでも、納税者をごまかして違法な課税をしてゆくことは、不可能であるということである。

その明白な証拠は、今国会において内閣から、所得税法の一部改正法律案として、所得税法にいわゆる「事業主報酬制」が導入され、事業主個人が自己の事業から労務提供の対価として給与(報酬)を受けることができることになつたので「法人擬制説の原則」が、所得税法において更に明確に打ち出された事実である。

控訴代理人は、本件控訴審において、昭和四六年三月から昭和四七年九月二一日の第一準備書面の提出まで一年半の間、便便として、控訴理由書の提出を見送つていた所以は、控訴代理人の主張が、甲第一九号証の昭和四四年四月一一日付日経新聞の「二本立て企業税制へ・個人課税の選択制・同族的な中小法人に」と題するスクープ記事のとおりに実現することを確信していたからである。

それで、控訴代理人は、右第一準備書面の第二において、右スクープ記事を引用して主張を補充したのである。

しかして、右「二本立て企業税制」が、所得税の側に「給与所得」として実現したのが、事業主報酬制である。

一五、事業主報酬制は、昭和四七年一二月二〇日の各新聞の朝刊に報道されたが、ここに日本経済新聞(甲第二一号証)および毎日新聞(甲第二二号証)の各記事を引用して主張する。

一六、事業主報酬制の内容は、

(一) 青色事業所得者は「みなし法人」課税にすることができる。

(二) みなし法人課税を選んだ事業主は、事業主報酬の支払いが認められ、サラリーマンの給与所得控除の二分の一を控除できる。

(三) 事業所得から事業主報酬を差し引いた残りの部分には法人税率をかける。

などである。

一七、「みなし法人」課税につき、日本経済新聞は

「みなし法人課税とは、納税者は個人だが、税法上、法人とみなして、法人税に即して課税する方法。」と、また、毎日新聞は

「みなし法人課税とは、個人事業を法人とみなして税金をかけようというもので、わが国では初の試み。米国などはすでにとり入れられている。これは個人事業と零細法人の境界が、実質的にあいまいなため、個人事業を法人と仮定することにより、税負担のアンバランスを緩和しようというもの。」

と解説している。

一八、被控訴人および原審は、税法における法律的、経済的および社会的理念の顕現を意識していないから、このみなし法人課税および事業主報酬制(以下これらを新制度という。)が制定されるに至つた理念的根拠を理解することができないものと認みる。

しかしながら、このみなし法人課税および事業主報酬制こそ、控訴代理人が本件請求において主張・立証している「実質課税の原則」および「二重課税排除の原則」をもつとも明確かつ理念的に打ち出したものである。

一九、新制度は、先づ第一に「会社事業および個人事業は、これを、法律的および経済的に「企業体」として把握したときに、同種の「企業体」であるから、税法においては、同種の「企業体」として同一に扱わねばならない。」ということである。

換言すれば、企業体が存在し、右企業体に対し、会社ならば、役員およびその他の勤労者が、個人ならば事業主およびその他の勤労者が、労務を提供して、企業体が営利事業を行つて利益即ち所得を得るのである。

従つて、企業体という主体から見たときには、役員、事業主およびその他の勤労者は、心身を使用して労務を提供する労務者、換言すれば「広義の使用人」という同一の地位にあり、企業体は、労務者に対し、同一性質を有する労賃(税法上の給与)を支払つているのである。

被控訴人は、株式会社とは「商法の適用がある法人である。」とその法律的一面のみを把握して、これを企業体として把握することができないため、「株式会社は株主という個人の集合体に過ぎない。」と断定して、その主張を展開しているのである。

しかしながら、株主が出資しただけでは会社は営利活動を行うことができない。

会社は、権利義務の主体である法人として、株主から独立して、役員およびその他の勤労者を使用して、企業を経営して所得を得る法的人格である。

株式会社は、これを企業体として、換言すれば、法律的、経済的および社会的組織体として把握したときには、それは「株主」並びに、法人税法における「役員」および「使用人」の三者が、互に協力して企業を運営して、利益(所得)を得て、右利益を右三者が分配する組織体である。

そして、会社は右利益を、株主には配当、役員には報酬、使用人には給与という名目で分配している法主体である。

換言すれば、株式会社とは「資本家」が「労働者」を使用して利益を得る手段ないし物的設備ではないのである。

二〇、被控訴人の法理念によれば、「株主」と「役員」および「使用人」が「平等の地位にある。」と考えることは誠にとんでもないことであるということになるのであろう。

被控訴人は、右三者が右のように「平等の地位」に立つことになつたら、株式会社法も労働基準法も廃止しなければならなくなつて「大変だ」と主張したいのだろう。

しかしながら、控訴代理人は「国民はみんな生活資金を得るために、身体と金銭を使用している点において平等である。」から、「右生活資金である年収から納税せしめる税金は「平等の原則」に従つて取扱わねばならないものである。」と認める。

二一、(憲法の平等の原則違反)

被控訴人は原判決において

「けだし、役員が支給を受ける賞与は、法人利益の窮極的帰属者たるべき株主等出資者に対する利益配当と異にするから、右両者に対する所得税課税の仕方が異るからといつて、原告主張のように法の下の平等に反するという非難は当らない。」と反論しているが、右は誠に何等の理由もまた合理性もない主張であつて、違法である。

右主張によると、被控訴人は、会社が納めた法人税につき、「配当については、確定申告のときに株主に対し、その一部を配当控除という形式で還付するが、役員賞与については、役員に対して全然還付しない。」という税法の取扱いが「法の下の平等である。」と主張していることになるが、右は誠に、平等の原則に違反する憲法違背の違法である。

二二、なるほど、株主は残余財産の分配を受ける権利を有する(商法四二五条)から、会社財産の窮極的帰属者であるが、法は、株主が生存している間に会社の残余財産を分配することを予定していないのである。

しかしながら、株主は、株式を譲渡して、株主としての地位を、いつでも離脱することができるのである。

そして一方、役員および使用人は、会社を離脱したいときには、会社を退職して退職金という賃金の後払金を受取ることができるのである。

所得税法が退職所得につき、勤続年数に応じた退職所得控除を規定しているのは、右所得が「賃金の後払いである。」との理念に立つているからである。

してみると、会社は、残余財産の分配又は株式の譲渡と退職金の支払いという手段によつて、株主と役員および使用人の三者を「平等に取扱つている。」ものと認める。

しかして、右三者に対する平等の取扱いは、「実質的平等の原則」に従つたものである。

しかして、所得税法は右三者の所得に対し、配当所得又は譲渡所得と退職所得を規定して、平等に課税する取扱いをしているのである。

二三、被控訴人は、原判決において「役員は本来企業の経営に専念し、使用人を指揮監督する地位にある以上、その地位が使用人の地位と両立しない。」との一つの見方を捕えて、「役員替与に法人税を課税することは適法である。」と誠に歪曲した、誤解に基づく主張をしているのであるが、右は誤りである。

二四、簡単にいうと、被控訴人は「社長が首になつた。」という法律的、経済的および社会的事実を法律的に理解することができないために、使用人である社長の「勤労所得」につき「役員賞与損金不算入」という本件旧規則二条項および新法三五条を制定して、違法な課税をなしたのである。

二五、(実質課税の原則違反)

控訴人は、本件役員ら六名が、会社に対し、労務を提供したので、これに対し、労賃即ち給与(賞与を含む。)を給与簿に記載の上、支給したのである。

しかして、本件役員らは、会社が「首にすることができる。」という地位にいた使用人であるから、本件役員ら六名が、代表取締役、取締役又は監査役の役職を有していたとしても、また、商法二五四条三項の会社と取締役との間の委任の規定および同法二七六条の監査役の使用人等との兼任禁止の規定があるとしても、本件役員ら六名に対し、控訴人が支給した賞与は、実質的に税法理念における「使用人に対する賞与」としての性質を有するものであり、形式的にも「使用人の賞与」として給与簿に記録して支給したものである。

してみると、本件役員賞与は、第九期の株主総会の決議に基づかないで、第九期中に支給されたものであるから「利益賞与」である筈がないのである。

よつて控訴人が、法人税法における「実質課税の原則」に従い第九期事業年度中に、本件役員ら六名に対し、勤労に対する報酬として一か年間に支給した本件役員賞与一〇一万円は、控訴人の必要経費となるものである。

従つて、被控訴人の主張は、明白に実質課税の原則に違反して無効である。

二六、そこで、控訴人は原判決における被控訴人の反論に対し、重ねて、反論する。

(一) 被控訴人は「そもそも法人の役員は使用人と異なり、」と主張しているが、本件役員らは、会使のために働らいて(勤労して)、金銭(勤労所得)を受取る点において明白に使用人と同じである。

(二) 被控訴人は「(法人の役員は)会社の機関としてその業務を執行するものであつて、法人との関係を委任に関する規定によつて律せられるとされ」と主張しているが、会社と役員との間の委任は、契約自由の原則が適用されるものであるから、右契約において、役員は、役員報酬として、使用人と同様に「賞与」という名目で、同一の時期に「賃金賞与」を支払う旨の委任契約を会社との間に約定することができるものである。

控訴代理人は、役員が「その業務を執行する」ことは会社のために勤労することであると認める。

(三) 被控訴人は「(法人の役員は)業務執行の対価として、報酬を受け、法人に利益がある場合に限り、株主総会の承認のもとにその分配として賞与の支給を受けるのがわが国の企業慣行であるから、」と主張しているが、役員は、

(1) 法人に利益がない場合においても、前記のとおり、委任契約に基づいて業務執行の対価として「賃金賞与」を受けることができるものである。

(2) 被控訴人主張のように「社長や平取締役はボーナスを貫うことができない。」というのが適法であれば、大臣、国会議員、裁判官および税務署長等がボーナスを貫うのは違法であることになるものと認める。

(3) 会社役員が「法人に利益がある場合に限り、株主総会の承認のもとにその分配として受ける賞与」は、「利益賞与」である。

しかして、「利益賞与」は、「勤労の対価」というような制約がないから、また、法人法税による「過大な賞与」という制限がないから、何億円でも支給することができるものである。

(4) しかしながら、利益賞与も賃金賞与と同様、勤労の対価として、換言すれば役員の「優秀な業務執行」に対して支払われる賞与である。

(5) 株主は株主総会において、役員の勤労によつて、予想以上の利益が得られた場合に、右利益の分配として即ち「真の意味の賞与」として、役員に対して「利益賞与」を支給するのがわが国の企業慣行である。

(6) 被控訴人は、違法な本件旧規則二条項によつて、歪曲された「賃金賞与」および「利益賞与」の支払を「わが国の企業慣行である。」と独断しているが、大蔵省令による規則で二重課税をなし、それも「苛斂誅求」な重い課税をなし、それに加えて、重加算税の賦課決定という形式で、違法行政を強行すれば、被控訴人が主張するような、幻の「企業慣行」を実現することも可能であろうが、右幻の企業慣行は、税法における正義によつて、必ず消滅するものであると認める。

(四) 被控訴人は「役員賞与を法人利益稼得のための必要経費として損金算入する理由はないのである。」と誠に違法な断定をなしている。

(1) 被控訴人は、国民常識に従えば、「法人利益は役員の稼ぎによつて得られるものでない。」と明確に断定しているのであるが、右は誠に誤解である。

(2) 控訴代理人は、被控訴人の主張するとおり「社長、代表取締役等は、本来企業経営に専念し、使用人を指揮監督する地位にあるものである。」から、会社が右社長らに支給する賞与は、当然に「会社利益稼得のための必要経費となるものである。」と認める。

(3) 換言すれば、被控訴人は「本件役員らは稼がないのであるから、これに賞与を出す必要がない。」と断定し、右断定に基づいて違法な税務行政をなしているのであるが、控訴人は「本件役員らに対し相当な賞与を出すから、会社の利益をあげてくれ。」と委任して企業経営をさせているのである。

(4) よつて、控訴人は本件役員らに賞与を支給しなければならない義務があるのである。

二七、(二重課税排除の原則違反)

(一) 控訴人は、本件役員ら六名に本件係争年度の一年間に金一〇一万円の「賃金賞与」を支給したのである。

(二) ところが、控訴人は、本件役員らに「賃金賞与」を支給することができないから、右「賃金賞与」はすべて、「利益賞与」であると認定して、本件更正処分をしたのである。

(三) 控訴人は本件賞与一〇一万円につき、本件役員ら六名の源泉所得税として税金一〇六、一〇〇円を徴収して、国に納付したのである。

ところが、芝税務署長は、本件更正処分によつて、右一〇一万円に対し、法人税金三三三、三〇〇円を控訴人に課税したのである。

(四) しかして、控訴人は、本件賞与一〇一万円は勤務の対価としての「賃金賞与」であるから、右一〇一万円に対し、更に法人税を課税することは、法人擬制説により、「二重課税排除の原則」違反として違法となり無効であるから、右「法人税三三三、三〇〇円を控訴人に返還せよ。」と請求しているのである。

(五) 仮りに、本件賞与一〇一万円が被控訴人の主張のとおり「利益賞与」であるならば、被控訴人国は、本件更正処分で徴収した法人税三三三、三〇〇円を、「役員賞与控除」として本件役員ら六名の所得税の確定申告において、控除することを認めるべきである。

しかるに被控訴人国は、「配当控除」は、法定しているが、「役員賞与控除」は法定していないとの身勝手な理由で「役員賞与控除を認めることができない。」と逃げたのである。

(六) してみると、被控訴人は「役員賞与控除」を法定していないのは、「役員賞与はすべて賃金賞与である。」との原則に立つているためであるから、本件旧規則二条項による本件更正処分の法人税三三三、三〇〇円の課税は、本件役員六名らに対する二重課税となつて、「二重課税排除の原則」に違反して無効である。

よつて、控訴人は、本件賞与一〇一万円につき、本件更正処分による法人税三三三、三〇〇円を納付する義務がないものである。

以上

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